ChatGPTは計画を立てるのに非常に優れていますが、結局のところ、実際に物事を成し遂げるには複数のアプリを行ったり来たりする必要がありました。
これまでも便利な裏技はありましたが、今回OpenAIが発表した新機能は、このチャットボットとの付き合い方を一変させるものになりそうです。
OpenAIの主力チャットボットが今、サードパーティ製アプリとのより深い統合を実現しようとしています。
これらのアプリはチャットボットとの会話に自然に溶け込み、日常的な言葉での指示に応え、チャット画面内で直接操作できるインターフェースまで備えているのです。
💡この記事のポイント
- ChatGPT内でSpotifyやCanvaなどの外部アプリを直接操作できるようになり、面倒なアプリ切り替えの手間がなくなる。
- AIがタスクに最適なアプリを自動で提案・起動してくれるため、作業効率が劇的に向上し、新たなワークフローが生まれる。
- 生産性に革命を起こす一方、AIへの過度な依存や個人データのプライバシーなど、新たな課題も浮き彫りにしている。
ChatGPTの中ですべてが完結
これからは、お気に入りのツールをChatGPTのチャット画面から離れることなく起動し、利用できるようになります。
OpenAIの発表は、チャットで対話できる新世代のアプリと、それを構築するための開発者向けツールをもたらしました。
これまでのように「Spotifyで特定の音楽を探して」とか「Zillowで物件を探して」と指示する代わりに、ChatGPTはこれらのアプリを会話の中に直接呼び出すことができるようになったのです。
たとえば、ホームパーティー用のSpotifyプレイリスト作成を頼むと、ChatGPTはチャットウィンドウ内にSpotifyを呼び出し、すべての曲をその場でまとめてくれます。旅行の計画でホテル探しを頼めば、ExpediaやBooking.comがチャット内で開き、ChatGPTを離れることなく選択肢を検討できるのです。
この記事を書いている時点で、Booking.com、Canva、Coursera、Figma、Expedia、Spotify、Zillowといった8つの主要アプリが対応済み。さらに、Uber、DoorDash、Instacart、Targetなどのパートナーも近々加わる予定です。
複雑な設定は不要
使い方も驚くほど簡単。
- ChatGPTに特定のタスクを依頼すると、対応するアプリの使用を提案される。
- アプリのボタンをクリックすると、ログインしてChatGPTと連携するよう求められる。
- 連携が完了すれば、もう準備は万端。あなたのChatGPTの会話の中にアプリが現れるように。
特定のアプリを使いたい場合は、プロンプトの冒頭でそのアプリ名を言及するだけでOKです。
私たちが知る「アプリ切り替え地獄」も、これで終わりを迎えるのかもしれません。
これまでのChatGPTは、特定のアプリでできることを提案するだけでした。どんな音楽を再生できるか、不動産価格はどれくらいか、どのフライトを予約すべきか、といった具合に。
その情報をもとに、私たちはChatGPTのアプリやブラウザのタブを離れ、それぞれのアプリやウェブサイトに移動してタスクを完了させる必要があったのです。
このレベルでのアプリ統合により、すべてがChatGPTの1つのチャットウィンドウ内で完結します。AIの提案と現実世界のタスクとの間のギャップが、劇的に縮まることになるでしょう。
ChatGPTにはほかにも便利な機能がたくさんありますが、このたった1つの機能は、それらすべてを凌駕するほどのインパクトを持っています。
この機能は、OpenAIの新しい「Apps SDK」によって実現されています。
これはModel Context Protocol (MCP)というオープンスタンダード(誰でも無料で利用できる技術標準)に基づいて構築されており、ChatGPTのようなAIアプリが様々なデータソースやツール、ワークフローに接続し、情報を取得したりタスクを実行したりすることを可能にするものです。
これらは単にアプリへ誘導する埋め込みリンクではありません。自然言語に応答し、地図やプレイリスト、予約フォームといったリッチなインターフェースを表示する、完全なインタラクティブ・アプリなのです。
ChatGPTが最適なアプリを選んでくれる
この新機能がもたらすもう1つのメリットは、「ソフトウェアとの出会い」です。
どのアプリが何をするのかをいちいち覚えておく代わりに、ChatGPTがタスクに最適なアプリを提案してくれます。まるで、仕事に最適な道具を自動で選んでくれ、アプリを比較検討する手間を省いてくれる、優秀なパーソナルアシスタントのようです。
旅行の計画ですか? Expediaがチャットに現れます。プレゼン資料が必要ですか? Canvaがいつでもスタンバイしています。
対応アプリが増えるにつれて、ChatGPTは特定のタスクに使える膨大なツール群を持つことになり、それぞれのアプリの強みを引き出し、私たちの時間を節約してくれるでしょう。
なぜこれが「ゲームチェンジャー」なのか?
ChatGPTはもはやただ話すだけではありません。あなたのタスクを「実行」する存在へと進化を遂げたのです。
生産性の爆発的な向上
まず第一に、これは絶大な生産性向上につながります。
のいつものChatGPTワークフローは、「ChatGPTが提案 → 私が正確性を調査 → アプリを切り替え → タスクを実行」という伝統的な流れでした。しかし今、すべてが1つの会話の中で流れるように進みます。
複数の複雑なタスクをChatGPTに依頼し、アプリやブラウザのタブを切り替えることなく完了させることができるのです。
ビジネスシーンにもたらす恩恵
この変化は、ビジネスにも大きな利益をもたらすでしょう。
従業員に複数のインターフェースの使い方を研修する代わりに、タスク全体を個別のプロンプトに圧縮し、状況に応じていくつかの変数を変更するだけで済むようになるかもしれません。これにより、新入社員の研修時間が大幅に短縮され、ツールの利用率も向上するはずです。
ChatGPTが仕事に最適なツールを見つけてくれることで、ツール探しの混乱も過去のものとなります。
新たなアプリ・エコシステムの誕生
OpenAIは、実質的に新しいアプリのエコシステムを創造しました。
Apps SDKは、開発者にChatGPTの全ユーザーベースへの直接的なアクセスを提供します。これは、個人の開発者や初期段階のスタートアップにとっては夢のような話です。
さらに、従来のアプリストアではアプリの発見が課題でしたが、ChatGPTはもっとも関連性の高い場面であなたのアプリを自動的に呼び出してくれます。
これにより、特定のタスクを得意とするアプリが、それらを一番必要とするユーザーの目の前に現れやすくなるのです。
便利さの裏に潜む、新たな課題
しかし、この変化がもたらす影響は、単なる利便性をはるかに超える可能性があります。
OpenAIが望むように、AIがすべてのソフトウェア操作のインターフェース層となる時、私たちがデジタルツールを発見し、学び、使用する方法そのものが変わってしまいます。
これはAIツールへの依存度を大幅に高めることになり、必ずしも仕事をする上で最善の方法とは言えないかもしれません。
もしChatGPTのアプリ統合が成功すれば、私たちは大きなプラットフォームシフトの初期段階を目の当たりにしていることになります。
アプリ中心のワークフローから、AIに「何をすべきか」を伝えるだけで、あとはAIがすべてを解決してくれる「会話中心」のワークフローへと移行するかもしれないのです。
言うまでもなく、これにはいくつかの懸念が伴います。
AIに選ばれるアプリ、選ばれないアプリ
一部のアプリはほかのアプリよりもうまく機能するため、アプリ発見機能はすぐに複雑な問題に直面するでしょう。
もし2つのアプリが同じタスクを実行する場合、私たちはAIにどちらか一方を選ぶように頼むことになります。これは、開発者が人間のユーザーではなく、AIに選ばれるために全く異なる種類の問題について頭を悩ませなければならないことを意味します。
アプリ設計の未来を変える可能性を秘めているのです。
プライバシーとセキュリティという大きな課題
そしてもちろん、複数のサービスを1つのAIインターフェースを介して接続することに伴う、プライバシーとセキュリティの懸念があります。
これは、あなたの個人データやアプリとのやり取りをさらに多くチャットボットに預けることを意味し、ツールを提供する企業がユーザーの行動データや利用パターンをより大量に収集できる可能性があるということです。
OpenAIは、同社のポリシーが、アプリに対して利用規約の遵守、全年齢対象の適切性、明確なプライバシーポリシーの提示を要求していると主張しています。また、アプリは「必要最小限のデータのみを収集し、権限について透明性を保つ」べきだとも。
特定のデータカテゴリをアプリが使用できるかどうかを決定するための、よりパーソナライズされた制御機能は将来的に追加される予定ですが、データへのアクセスとその収集は増加の一途をたどるでしょう。
1つのチャットですべてが動く時代へ
誰もがデジタルライフのすべてを1つの会話ウィンドウで管理したいわけではないでしょう。私もその一人です。しかし、その向かう先は明らかです。
私たちは、AIが単に質問に答えるだけでなく、私たちが使うのと同じツールを使って、私たちのタスクを代行してくれる世界へと向かっています。このアプリ統合は、アプリ間の切り替えが時代遅れになる未来を示唆しているのです。
現在のところ、この機能はEUの規制上の制約により、同地域を除くChatGPTユーザーに提供されています。
しかし、より多くのアプリが対応し、利用範囲が拡大することも視野に入っている今、ChatGPTの使い方、そしてChatGPTがあなたのためにどう機能するのか、その変化に備える時が来たようです。
ヤドゥラー・アビディ
コンピューターサイエンスとジャーナリズムの学位を持つ、異色の経歴の持ち主。Windows、サイバーセキュリティ、プログラミングなど幅広い分野で10年以上の経験を誇る。
現在はテックメディア「MakeUseOf」のライターを務め、過去には「The Mac Observer」などで編集者としても活躍。自身もフルスタック開発者であり、その実践的な開発者視点から情報を発信。
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