
母が亡くなったあと、私と姉は、母の裁縫部屋を片付けていました。そして、戸棚や引き出しに、つくりかけの作品や、まったく手をつけていないものがたくさん入っているのを見つけたのです。
「どうして最後までできなかったのだろう?」と私は思いました。
ところが最近、自分の家の中を見回してみて、やっぱり親子だなあと思ったのです。
戸棚の中には、私のインスピレーションが湧くのを待っている水彩画の画材。ベッドサイドテーブルには、面白そうなタイトルの本がたくさん。そしてオンライン講座は、まだ登録してもいません。
賭けてもいいですが、あなたにもきっと、やりかけたままになっていることが、いくつかあるでしょう。それらは静かに、しかし確実に、あなたの自己肯定感を少しずつ削り取ってはいないでしょうか。
人はなぜ、最後までやりとげることが苦手なのでしょうか?
この記事では、その根本原因を探り、単なる精神論ではなく、日々の行動に落とし込める具体的な思考法を手に入れていきます。
原因は、私たちが「完璧なタイミング」という幻を待ち望んでいることにあるようです。
「ひと区切りつく時」は来ない
私たちは、「身の回りが片付いて、ひと区切りつく時が来る」と思い込んでいます。
この問題について示唆に富む洞察を与えてくれるのが『Four Thousand Weeks: Time Management for Mortals』の著者、オリバー・バークマン氏です。
オリバー氏は「人生をコントロールしたいという願望こそが、私たちを悩ませる元凶だ」と言います。しかし、そもそも人生を完全に制御することなど、誰にもできません。
人生をコントロールしたいという願望は、私たちを悩ませます。けれども、人生のコントロールは、私たち人間にとって可能なことではありません。
いつだって、やるべきことは山のようにあります。「今なら、万全の態勢で、興味ある新しい企てをはじめられる」と感じることは決してないのです。
オリバー氏は、「まるで、自分と、『行動を起こすこと』の間に障害物があるかのようです」と語ります。
私たちは、「まずは、この問題やあの問題を解決しなければならない」と考えがち。
それらの障害がすべて取り除かれさえすれば、やりたいことに取りかかり、最後まで終わらせる準備がやっと整うと信じているのです。
その結果、私たちは物事を先延ばしにし、ほかのことに気を取られ、自分が本当に何をすべきかを見失ってしまいます。
しかしオリバー氏は、私たちがそうした不完全な存在であることを受け入れたうえで、自分の人生を「今、この瞬間から」意味あるものにしていくべきだと主張します。
私たちは、だらだらと先に延ばしたり、ほかのことにすぐ気を取られたり、自分がやっていることをしっかり把握していると思えなかったりします。
私たちは、そうした不完全な存在でありながらも、自分の人生を今すぐ、意味あるものにするべきです。
(中略)それが、今、行動に飛び込むための方法です。人生の「本当の意味」を、未来に先送りするようなことを続けるべきではないのです。
なぜ、最後までやりとげられないのか?
オリバー氏によると、最後までやりとげるのが難しいのは、2つの根本的な理由があるからだそうです。
どちらにも、人間が本質的に限界を持つことを、私たちが認めたくない、という問題がからんでいます。
第1の理由は、何をはじめるにしても、はじめる前には、完璧にできるという幻想が実現しそうに思えるからです。
あなたは、今回はすべてがうまく運ぶような気がしています。ところが、それが難しくなってくるので、何か別のことをはじめたくなってしまうのです。
完璧主義の幻想を持ち続ける限り、何かを最後までやりとげられることはありません。
第2の理由は「多忙であること」自体に、一種の安心感と自己重要感を見出してしまう心理です。
「自分に何かしてもらうのを待っている人が10人いるのなら、自分は重要人物に違いない、と感じるわけです」と、オリバー氏は指摘します。
そして、無意識のうちにこう考えてしまうのです。
「やりたいことが山積みで、すべて終わらせるのに何年もかかる。ということは、自分にはそれだけの時間が残されているに違いない」と。
これは、自らの命に限りがあるという根本的な事実から目をそむける、巧妙な自己欺瞞(自分自身をごまかすこと)に他なりません。
その結果として、新しいことをはじめたくなるわけです。
けれども、そんな生き方は疲れますし、やがて、やる気もなくなっていきます。なぜなら、実際にやりとげて世に送り出し、何かを達成した、という満足感を、決して味わうことがないからです。
「最後までやりとげること」をはじめる
最後までやりとげられるようになるための第一歩は、「何でもやりかけのままにする習慣が自分のためにならないこと」を認めることです。
完璧さを求める気持ちをなだめましょう。完璧さを求めるせいで、やりとげることによる深い満足感を得られないことに気づきましょう。
「たいていは、そうしたことに気づくと、行動が変わります」とオリバー氏は説明します。
最後までやりとげられるようになるには、「最後まで終わらせる」ことの意味を定義し直す必要がある、とオリバー氏は言います。
本を書くという目標を立てた場合、「この本を最後まで書き終えなければならない」と思うかもしれません。
もちろん、いずれ書き終えることになるわけですが、本1冊というのは、とてつもない大仕事です。
代わりに、大きなプロジェクトや目標を、達成可能な小さなかたまりに区切り、中間目標やマイルストーンを設定しましょう。
そうしたうえで「今日、これだけは終わらせる」と決められる、具体的な1つの作業に向き合うのです。
「本を1冊書き上げる」という壮大な目標がもたらすプレッシャーから自らを解放し、日々の作業を淡々と達成していく感覚です。
たとえば目標は「第2章の構成を考える」で構いません。
そしてやり終えたら、どんなに些細なことでも、その達成を意識的に認め、祝いましょう。コーヒーを1杯淹れる、少しだけ好きな音楽を聴く、それだけで十分です。
この「小さな完了」の積み重ねこそが、やり遂げるためのエネルギーを驚くほど生み出してくれる源泉となります。
もう1つの工夫は、プロジェクトを終わらせるための時間をつくることです。
オリバー氏がすすめるのは、『Time Warrior(時間の戦士)』(未邦訳)の著者で、意欲を引き出す方法を教えるSteve Chandler氏が提案するテクニック。
1週間に1日、あるいは1カ月に1日を、終わっていない作業を完了させる時間に充てるのです。
生活や仕事の中でやり終えていないことを、思いつく限りたくさん終わらせましょう。
そんなことをしたら疲労困憊してしまう、と思うかもしれませんが、未完の案件があると、やる気や注意力が流出してしまうのです。こうした案件を終わらせていくことで、力がみなぎるのを感じるでしょう。
戦略的に「やめる」勇気を持つ
最後に「やめる」という決断もまた、それが意識的・意図的な行動である限り、「最後までやり遂げる」という行為の1つの形なのだと理解すべきです、とオリバー氏は語ります。
「このプロジェクトは、今の自分にとって重要ではない。だから、やめる」と、自ら区切りをつけるのです。
いつまでもリストに残り続けるゾンビのようなプロジェクトは、もはや自分のものではない、過去のあなたが抱いていた野心の残骸かもしれません。
目標を十分に細かく分ければ、最後までやりとげる人生を生きることができる、とオリバー氏は説明します。
あなたは、一瞬一瞬を完了させることを、ずっと続けながら生きます。そして、その一瞬は過ぎ去っているのです。
「今日は何を終わらせようか」という姿勢で仕事に取り組むなら、あなたは、物事が時間のなかでどう存在するかということを受け入れています。
こうした生き方は、エネルギーを生み出すものです。なぜならあなたは、現実の流れに乗って、その瞬間ごとに生まれ続けるからです。常に現実に逆らい、現実と戦おうとするのではなく。
──2024年11月20日 公開記事を再編集して再掲しています。
訳: ガリレオ
Source: Amazon(1, 2)
Originally published by Fast Company [原文]
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