
期待と課題がもりもり。
米連邦準備制度理事会(FRB)によると、生成AIは単なる一時的なテクノロジーブームではなく、人間の生産性にとっての「ゲームチェンジャー」であると評価されています。
ただし、大きな注意点として、その道のりは「本質的に遅く」、「多くのリスクを伴う」とも述べられています。
連邦準備制度理事会が最近発表した論文で、生成AIをめぐる現在の盛り上がりは、長期的にはバブルではない可能性が高く、この技術はマクロ経済において強力な力となり、電気や顕微鏡のように労働生産性に革命的な影響を与えるだろうと指摘されています。
生成AIが労働者の生産性を高めるという考えは、新しいものではありません。OpenAIのChatGPTがAIブームの火付け役になって以来、多くの企業幹部やAI推進派の人たちによって称賛されてきました。
しかし、重要なのは国の最も強力な経済機関である米連邦準備制度理事会が、AIの可能性に対して注目すべき信頼を表明したことです。ただし、条件付きではありますが…。
AIは顕微鏡に匹敵する革命
この論文は技術革新を3つのカテゴリーに分類しています。
まず、電球のような技術。労働者が昼間以外にも働けるようになったことで、生産性を劇的に向上させました。しかし、その技術が普及すると、追加の価値は限定的になりました。
一方で、研究者たちは「生産性の成長に長期的な影響を与える2つの技術タイプがある」とし、生成AIはその両方の特徴を持つと述べています。
1つ目は「汎用技術」。例えば電動発電機やコンピューターのようなものです。一度普及した後も関連した技術の革新を促し、生産性の向上が継続的に進む技術のことを言います。
研究者たちは、生成AIがすでにその兆候を示していると述べています。例えば、法的問題を支援することを目的としたOpenAIのLegalGPTのような特定の分野向けの専門的なLLMや、企業のワークフローに生成AIを統合することで職場の生産性を高めることを目的としたMicrosoftのCopilotなどがあります。
連邦準備制度の研究者たちは、さらに多くの波及的な革新が生まれ、その波はデジタルネイティブ企業を中心に広がっていくだろうと考えています。
そして、生成AIの核となる技術が急速に進化し、現在は企業が人工汎用知能(AGI)の達成を目指して技術開発をするに連れて、おそらく今後もスピード加速は続くとしています。こうした技術の急速な成長により、すでにエージェントAIやDeepseekのR1のような画期的なAIモデルも登場しています。
発明の方法の発明
2つ目の技術タイプは「発明の方法の発明」です。代表的な例としては、顕微鏡や印刷機があります。
顕微鏡は今では一般的なツールになっていますが、さまざまな研究開発プロジェクトを可能にし、人間の生産性レベルを継続的に向上させています。
生成AIは、宇宙の性質を理解するためのシミュレーションや新薬開発などにも役立っています。そして論文では、2023年以降、企業が研究開発や決算説明会でAIに言及する頻度が大幅に急増していることを指摘していて、おそらくAIと企業イノベーションの統合がすでに始まっていることを示しています。
落とし穴もある
とはいえ、注意点もあります。AIは経済成長と生産性成長の向上に貢献していますが、その効果が一夜にして起こるわけではありません。
論文によると、現在の生成AIの最大の課題は技術そのものではなく、人々や企業に実際に使ってもらうことなんだそうです。
研究者たちはAIの導入を始めていますが、技術分野や科学分野以外のほとんどの企業は、金融業界を除いて、まだ日常業務にAIを組み込んでいません。そして業界調査によると、AI採用は小規模企業よりも大企業の方がはるかに高いことが示されています。
そのため、生成AIは全体的な生産性を向上させる可能性が高いものの、その効果が現れるのには時間がかかると考えられます。
なぜなら、AIを実際に経済全体で活用するには、時間、資金、そしてユーザーインターフェースやロボット技術、AIエージェントなどの支援技術の進化も必要だからです。著者たちは、過去のコンピュータ技術革新と同様で、数十年にわたる積み重ねの後に初めて生産性ブームが訪れたという例と比較しています。
そのブームがいつ起こるのかはまだ不明です。ゴールドマン・サックスのエコノミストたちは、アメリカの労働生産性とGDP成長に対するAIの効果は2027年に現れ始め、2030年代にピークに向けて加速すると予測しています。
連邦準備制度はもう1つのリスクとして、予想される需要に対するインフラ構築を挙げています。生成AIの普及には、データセンターや電力供給への投資が必要ですが、需要が予想通りに成長しない場合、あまりにも急速な投資は「破滅的な結果」をもたらす可能性があると警告しています。
これは1800年代の鉄道拡張によって経済不況につながったのと同様です。こうした注意点はありますが、連邦準備制度は生成AIが生産性にとって画期的変化をもたらす存在であると確信を持っているとしています。しかし、それが電動発電機や顕微鏡のように永続的かつ大規模な効果を発揮するかどうかは、技術の導入の範囲とスピードにかかっていると締めくくっています。