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海水の温度上昇が止まらない...サンゴ礁が耐えられない「転換点」に到達

Kenji P. Miyajima
16/10/2025 12:30:00
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Image: Vanessa McDonough / National Park Service

ついに超えちゃったか、転換点。だったら、反対向きに超え直すしかないな。

「地球上で最初に消滅する生態系の研究に人生をささげるのは、どんな気持ちですか?」

海洋生物学者でサンゴ礁保護活動家でもあるMelanie McField氏は、2019年に開催された会議で、参加者からの思いがけない問いかけに言葉を失ったそうです。

現在はHealthy Reefs for Healthy People(健全な人々のための健全なサンゴ礁)構想のディレクターを務める同氏は、世界のサンゴ礁が危機的状況にある認識は持っていたものの、気候変動によって最初に消えてなくなる生態系になり得るという現実が心に突き刺さったとし、米Gizmodoの取材に対して、「私はめったに言葉を失うことはありません。ただただ、何と答えればいいのかわかりませんでした」と話しています。

サンゴ礁が「地球初の転換点」を突破

それから5年以上がたったいま、McField氏は画期的な報告書に携わった160人の共著者のひとりになりました。

エクセター大学と国際的な研究チームが発表した『2025 Global Tipping Points Report』によると、熱帯や亜熱帯に位置する温暖海域のサンゴ礁が、地球システムで初めて気温や海水温などの上昇に対する後戻りできない転換点を超えたと結論づけています。

報告書は、世界各国の閣僚がブラジルに集う国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)の準備を進めるタイミングに合わせて発表されました。

各国の指導者は、COPなどの会合で地球が直面している気候変動問題について(ものすごく保守的な)合意形成を図ります。

報告書の著者たちは、新たな知見が政策決定者を温暖化抑制につながる行動へと駆り立てることを期待しているといいます。

McField氏は、「交渉の場には、『サンゴ礁を地球に残したい』と粘り強く主張してくれる人々が必要です」と語っています。

海洋温暖化の脅威

海水温が上昇すると、サンゴと共生している褐虫藻が体外に排出されます。褐虫藻によって、サンゴはさまざまな色を保っているため、褐虫藻がいなくなるとサンゴは真っ白になります。これが「白化」と呼ばれる現象です。

褐虫藻は、サンゴに色彩を与えるだけでなく、光合成を通じて酸素や必須栄養素を供給する、切っても切れないパートナーなのです。

NOAA(アメリカ海洋大気庁)によると、地球は現在、史上4度目になる大規模なサンゴの白化現象の真っただ中にあります。

2023年1月以降、世界のサンゴの84.4%が白化を起こすレベルの熱ストレスにさらされており、少なくとも83の国と地域で大規模な白化現象が確認されています。過去10年間で2度目、そして観測史上最大規模の白化現象です。

ここで、いいニュースと、悪いニュースがあります。

いいニュースは、白化したサンゴは死んでいるわけではないということ。ある程度の期間、海水温が下がれば、褐虫藻が再びサンゴに定着することができます。

悪いニュースは、気候変動が白化現象を深刻化させると同時に、短期間に何度も海洋熱波が発生すると、回復する時間がなくなってしまうことです。

つまり、白化したサンゴが元通りの姿を取り戻す可能性がどんどん低くなっているんです。

ハワイ大学海洋生物学教授で、サンゴ礁研究の権威であるMark Hixon氏(今回の報告書作成には不参加)は、米Gizmodoに対し、次のようにコメントしました。

だからこそ、海洋温暖化は本当に恐ろしいのです。現在は特に、海洋が急速に温暖化し始めているため、より頻繁に、より深刻な白化現象が発生するでしょう。

では、地球の平均気温がどこまで上昇すると、ほとんどのサンゴ礁が白化現象から逃れられなくなるのでしょうか?

研究者は、この「転換点」を、産業革命前よりも1.2度(誤差を含めると1~1.5度の範囲)上昇した時点推定しています。

現時点で産業革命前の水準から1.3度以上上昇しているので、地球はすでにその転換点を過ぎてしまったことになるわけです。

地球は未知の領域へ

ここでハッキリしておきますが、不可逆な転換点を超えたからといって、世界中のサンゴが今日、明日のうちに死滅するわけではありません。

McField氏も、「私たちが言いたいのは、生態系全体が崩壊へと傾き始める危険な領域に入っているということです」

サンゴ礁は、それぞれ固有の特性を持っています。種、地域の海水温、海水温以外のストレス要因、生息する海域における生態系の健全性、回復力など、さまざまな条件がサンゴの命運を左右します。

つまり、すべてのサンゴ礁が危険な領域に入っていますが、白化や死滅へ向かう速さは場所によって違うのです。

しかし、温暖化が進む世界では、そういった条件に関係なく、世界中のサンゴ礁すべてがより大きなリスクにさらされていることはハッキリしています。

報告書によると、世界平均気温は、今後10年以内に産業革命前の水準から1.5度上昇する可能性があります。この数値は、温暖海域のサンゴ礁が耐えられる限界の上限にあたります。

そのため、McField氏は、1.5度を超えると未知の領域に入る」とし、たとえ温暖化が1.5度上昇で止まったとしても、温暖海域のサンゴ礁は「ほぼ間違いなく」転換点を超えて崩壊する恐れがあるとしています。

サンゴ礁を守るためにできること

それでも、世界中の科学者はサンゴ礁の保護と再生に取り組んでいます。回復力がある個体の選択的交配によって、温暖化の影響への耐性が高い遺伝的特性を持つサンゴを繁殖させることに重点を置いているといいます。

McField氏は、「この方法には、種の完全な絶滅をある程度防ぐ効果があります。しかし、サンゴ礁を抱える国々における保全活動への資金投入が極めて少ない現状で、生態系規模の応用を考えた場合、果たして経済的に実現可能な選択肢になり得るでしょうか?」と指摘します。

一方で、汚染やサンゴ礁を傷つける乱暴な漁法といった温暖化以外のストレスを減らす取り組みも進められています。

たとえば、Hixon氏はハワイにおける水質改善と草食性魚類の保護に取り組んでおり、サンゴ礁への負荷を軽減し、白化からの回復力を高めようとしています。

それでも、このような努力だけで急激な気温上昇の影響をすべて緩和できるわけではありません。

報告書は、世界平均気温を産業革命前比で1度以下まで下げるには、厳格な温室効果ガス排出量の削減と炭素回収が必要とし、「この水準の気温が、温暖海域のサンゴ礁が健全に機能する規模で存続するために不可欠」と指摘しています。

Hixon氏は、科学者にできることや責任について語っています。

科学者には、サンゴ礁が直面する脅威や、その進行の速さ、そしてサンゴ礁の喪失を防ぐために私たちが具体的にとれる対策について、影響を受けるあらゆる立場の人々と対話する責任があります。


たとえセオリーとしての転換点を超えたとしても、すべてのサンゴ礁がなくなると決まったわけじゃないので、「もうダメだ」とあきらめてしまわずに、少しでも多くのサンゴ礁を残すために温暖化対策を最速で実施しなきゃですね。

提供元 Gizmodo