- ランコムがブライダル市場へ再注力し、花嫁層を意識したマーケティング戦略を展開している。
- ベッカ・ブルームやモニーク・ルイリエとの提携を通じて、「手の届くラグジュアリー」を体現している。
- SNS分析で花嫁層の親和性が非花嫁層の73倍と判明し、ブランド再評価の追い風になっている。
花嫁がメイクを思い浮かべるとき、ランコム(Lancôme)が最初に頭に浮かぶブランドでありたい。
同ブランドはそのために、花嫁たちに「ランコムは常にブライダルエレガンスの象徴である」ということを示し、あるいは思い出してもらうための多面的な戦略を打ち出している。
「ランコムはいつの時代も人生の大切な瞬間に寄り添ってきたブランドだ」と、ランコムのゼネラルマネージャーであるラムジー・バーンズ氏は語る。
彼女は、結婚式でランコムのメイクを使ってきた世代を超えた多くの女性たち、そして日常のメイクでもランコムを愛用している女性が、記念日などの特別な日に再びランコムのカウンターを訪れ、メイクを依頼することが多い点を指摘した。
無料の「ブライダルトライアルメイク」とデータで見る高い親和性
バーンズ氏によると、かつては全米各地で女性たちが「ブライダルトライアルメイク(お試し花嫁メイク)」をランコムのカウンターで無料で受け、そのあと、担当したメイクアップアーティストを個人的に雇い、自身やブライダルパーティーのメイクを依頼することが一般的だったという。
これは単なる観察ではなく、データに基づく知見でもある。
「我々は消費者層とその関心について多くの調査を行っており、その結果、ブライダル層は非ブライダル層に比べて、ソーシャルメディア上でランコムに親和性を持つ確率が73倍も高いことがわかった」とバーンズ氏は述べた。
「タイムレスエレガンス」を掲げるブランド哲学
「ブライダル市場において、ランコムは非常に高い指標を示している。我々はメイク、スキンケア、そしてフレグランスを提供しており、消費者のルックをトータルで完成させることができる」と彼女は続ける。
「消費者はラグジュアリーさと機能性の両方を求めている。さらに、メイクをしても一日中崩れないという安心感を求めている。そしてランコムの製品はまさにそれを実現している」。
加えてバーンズ氏は、ブランドの美的方向性についてこう説明した。
「我々は『見るに堪えないビューティ』でも、『アヴァンギャルドなビューティ』でもない。我々は『タイムレスエレガンスなビューティブランド』であり、それこそが多くの花嫁が結婚式の日に求めるものと完璧に調和しているのだ」。
ベッカ・ブルームとのコラボが話題に
最近では、インフルエンサーのベッカ・ブルームが8月28日にイタリア・コモ湖で挙げた結婚式において、ランコムが公式パートナー(有償)としてメイクアップブランドに選ばれた。
同ブランドは、セレブリティメイクアップアーティストのダニエレ・ルッソ氏(インスタグラムフォロワー85万1000人)を派遣し、ブルームのリハーサルディナーから本番の挙式まで、すべてのイベントでメイクを担当した。
ブルームはTikTokで470万人、インスタグラムで270万人のフォロワーを持ち、華やかなライフスタイルをシェアすることで知られている。
モニーク・ルイリエやモデルとの提携で「ブライダル=ランコム」印象を強化
さらに10月14日には、ランコムがモニーク・ルイリエ(Monique Lhuillier)と提携し、ニューヨーク・ブライダル・ファッションウィークに初参加したことも話題となった。
また、有償のパートナーシップではないが、モデルのジョーダン・スローン(インスタグラムフォロワー75万5000人)の結婚式でも、ランコムがメイクアップサービスを提供した。彼女はまだその内容を公には投稿していない。
「ジョーダン氏は我々のコミュニティの一員であり、彼女のクラシックなスタイルを以前から称賛している。ランコムは美しさ、幸福、愛のブランドだ。我々はこれからも人生の重要な瞬間に寄り添っていきたい」とバーンズ氏は語る。
「おとぎ話」に憧れる一般層にも手の届くラグジュアリー
もちろん、すべての花嫁がコモ湖で結婚式を挙げられるわけではない。オーストラリア版、エル(Elle Australia)によれば、ブルームの結婚式の費用は300万〜400万ドル(約4億9500万〜6億6000万円)と推定されている。
また、すべての花嫁がモニーク・ルイリエのドレスを着られるわけでもない。
「我々は、それが日常の女性たちの生活とは異なることを理解している」とバーンズ氏。
「けれど、人は誰しも『おとぎ話』に惹かれるものだ。理想の物語を見て、自分の生活に合う形でその夢を取り入れたいと思うものなのだ」。
ランコムは、こうした「憧れの物語」との結びつきを通じて、予算が違っても同じような美意識を持つ花嫁たちに訴求したい考えだ。
「創造性とインスピレーションを刺激することで、感情的なつながりを生み出したい。花嫁がランコムのメイクを受けている美しい写真を見て、『ランコムは手の届くラグジュアリーだ』と思い出してもらいたい。たとえば、50万ドル(約8250万円)をかけなくても、美しいランコムのリップスティックを使うだけで、ラグジュアリーな気分を味わえるのだ」とバーンズ氏は述べた。
SNS施策の成功と今後のコラボ展開
ブルームとのパートナーシップは自然な形ではじまったという。
ブルームがもともとランコム製品の愛用者であったため、ブランド側から結婚式への協力を打診した。ソーシャルメディア担当ディレクターも現地に同行し、米国チームとイタリアチームが数カ月にわたって準備を進めたという。
「視聴数もエンゲージメントも非常に高く、すべての指標を大幅に上回る結果だった」とバーンズ氏。
結婚式で撮影されたランコムの投稿は、2025年のインスタグラム投稿のなかでトップ5に入るエンゲージメントを記録。そのうちほかの2投稿は、グローバルアンバサダーのオリヴィア・ロドリゴを起用したものである。
また、ブルームとその結婚式メイクを紹介するメールマガジンの開封率は50%という異例の高さを記録し、彼女の影響力の強さを裏付ける結果となった。
バーンズ氏は、詳細はまだ明かせないが、ブルームとの今後の新たなコラボレーションも進行中であることを明らかにした。
「我々はベッカが大好きだ。彼女はランコムの顧客層に非常によく響く存在なので、今後も協業を続けていきたいと考えている」と述べた。
なお、モニーク・ルイリエとのコラボレーションも数カ月前から準備が進められていたという。
モニーク・ルイリエとの長期的提携と今後の展望
「私とランコムのような象徴的なブランドが手を組むことはとても自然なことだ」とルイリエ氏は語る。
「私は新コレクションのインスピレーションを数カ月にわたりランコムのチームと共有してきた。ランコムはエレガンス、フェミニニティ、そして世代を超えた美の象徴。彼らは歴史あるブランドであり、私自身もこの業界で29年活動している」。
ランコムのブライダル戦略は、これで終わりではない。
実際、同ブランドはフランス・グラースに「ドメーヌ・ド・ラ・ローズ(Domaine de La Rose)」という施設を所有しており、バーンズ氏は今後、特別なVIP顧客がその場所を結婚式会場として利用できるようにする構想を描いている。
[原文:Glossy Pop Newsletter: Lancôme is making moves to become every bride’s go-to glam]
Sara Spruch-Feiner(翻訳、編集:藏西隆介)