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Google がAIライセンス交渉を開始 パブリッシャーが突きつける「3つの条件」

編集部
07/08/2025 05:00:00
記事のポイント

  • パブリッシャーは、AIによるコンテンツ利用に対し、公正な報酬と使用の透明性、主導権の確保を強く求めている。
  • Googleとの契約では、API提供や使用拒否の権利など、リアルタイム管理と可視性の担保が焦点となっている。
  • パブリッシャーは、不透明で一方的な関係から脱却し、長期的かつ対等なAIパートナーシップ構築をめざしている。

長年にわたるコンテンツの無許可使用と交渉回避の果てに、GoogleはようやくパブリッシャーとのAIライセンス協議を始めるようだ。メディア関係者のあいだには、警戒感と諦めが交錯する。彼らにとっては見慣れた光景だ。このさきに待つのは、「パートナーシップ」の提案がいつの間にかGoogle側の支配強化へと向かういつもの展開だ。

タイミング的にも驚きはない。米紙ニューヨークタイムズ(The New York Times)は6月にAmazonとコンテンツのAI利用に関するライセンス契約を交わした。すでに多くのパブリッシャーは自社のコンテンツがAIシステムの学習に使われることに相当の不安を抱えているが、両者の契約によってこの課題の緊急性は否応なく高まった。

Googleは巻き返しに躍起だ。報道によると、20社前後のパブリッシャーと予備的な協議を行っているという。協議の行方は依然流動的だが、パブリッシャー側の要望の輪郭はすでに明らかになりつつある。その要求は、実現可能かはともかく、至ってシンプルだ。「実質的な報酬」「実質的な透明性」、そして何よりも得がたく、これまでほとんど得られることのなかった「市場における主導権」の3つである。

Digidayが複数のパブリッシャーに取材したところ、彼らの核心的な要求は大きく3つに集約されることが分かった。意味のある収入、明確な契約条件に加えて、彼らは市場での主導権や決定権をもう少しパブリッシャー側に渡してほしいと要望している。

価値に見合う対価

これは、報酬と同じくらいに「原則」の問題でもある。

パブリッシャーは長年にわたり、Googleのシステムにコンテンツという糧を供給してきた。AIの学習を助け、検索結果ページを満たし、ユーザーのエンゲージメントを維持しつづけてきたが、その果実を刈り取るのは常にGoogleだった。いまさら報酬をと言われても、公平だと感じるには手遅れだが、パブリッシャーにとって譲れない一線ではある。

あるパブリッシャーの商務部門を担当する幹部はこう警告する。「前払いの小切手が最初で最後の支払になると思っておいたほうがいい」。

定額の基本料金と従量課金を組み合わせた「ハイブリッド契約」が注目されるのもそのためだ。こうした契約形態は、たとえばOpenAIがAP通信(Associated Press)やアクセルシュプリンガー(Axel Springer)と結んだ契約など、ほかのコンテンツ使用許諾契約にも散見される。ハイブリッド契約では、単なるアクセス権だけでなく、継続的な利用に対しても報酬が支払われる。

このような仕組みがなければ、根本的な問題は解決されない。「AI Overviews」のような検索結果の要約機能は、パブリッシャーを「見えない供給者」、つまりコンテンツの創造者でありながら、その経済的価値から切り離された存在へと変えてしまうリスクをはらんでいる

独立系Webサイトの広告販売を支援するラプティブ(Raptive)で最高戦略責任者を務めるポール・バニスター氏はこう話す。「GoogleであれOpenAIであれ、ほかの誰であれ、営業初日から莫大な利益をあげるわけではないが、いずれはそうなる。成長の暁に、パブリッシャーもその利益を継続的に享受すべきであって、プラットフォーム側だけが恩恵を受けるような不当な契約に縛られてはいけない」。

もっとも、たとえ寛大な収益分配があったとしても、金は金でしかない。可視性、帰属表示、参照流入などが減り続けるのであれば、それはもはや金の問題ではない。

コンテンツの利用と表示に関する主導権

報酬以上にパブリッシャーが求めてやまないのが「主導権」だ。自分たちのコンテンツがどこで、どのように、あるいはどんな契約条件のもとで表示されるのか。それを把握し、管理する権利を求めている。それは間違いなく、こうした契約においてもっとも重要でありながら、もっとも保証されにくい要素とも言える。契約の焦点がAIの学習用データからリアルタイムのコンテンツの取り込みへと移行するに伴い、主導権を求めるパブリッシャーの声は強まるばかりである。

デリケートな問題であるとして匿名で取材に応じたあるパブリッシャー幹部はこう説明する。「AIのアルゴリズムが我々のデータをどう使用しているのか把握できれば、それだけ将来的な計画も立てやすい」。

しかしこれまでのところ、そうした透明性は限定的で、パブリッシャーにとっては苛立ちの種となっている。「自分たちのコンテンツの使われ方について基本的な情報を求めているだけなのに、あたかも過剰な要求をしているかのように扱われるのは心外だ」というのが彼らの言い分である。

Googleに限って言えば、パブリッシャーは求めるデータを得られないのではないかと懸念している。すでに1年以上にわたり、パブリッシャーはGoogle検索の要約機能「AI Overviews」が自社の参照流入や表示機会に与える影響を手探りで分析してきた。Googleは同社が運営するどの分析プラットフォームでもこのデータを公表していない。

米メディア企業のトラステッドメディアブランズ(Trusted Media Brands、以下TMB)で事業開発担当バイスプレジデントを務めるジェイコブ・サラモン氏は、「この状況を放置するわけにはいかない。現に、AI要約の表示とそれに伴う変化は、我々のビジネスにさまざまな影響をもたらしており、現状を理解するにはデータへのアクセスが必要不可欠だ」と述べている。このような情報共有は、サラモン氏のみならず、TMBのAI運営委員会など、社内のほかの部門も強く要求するところだという。

言うまでもなく、この部分の取り決めはもっとも注目されるポイントのひとつとなるだろう。本稿執筆のために取材した複数の関係者によると、パブリッシャーの要求は大きく2つあるという。リアルタイムでの更新と修正に対応するAPI、そして使用拒否と帰属表示の手続きだ。

AI企業に対する訴訟(たとえば、ニューヨークタイムズがOpenAIに対して起こした著作権侵害訴訟など)も、今後、こうした契約の形態や構造を大きく変える可能性がある。規制についても同様だ。

「AIの標準化も非常に速いペースで進展している」と、前掲の商務部門幹部は指摘する。「今日はいい契約に見えても、それが将来にわたっていい契約であるとは限らない。現在係争中の訴訟はいくつもあるが、その結果次第では、この種の契約の構造が大幅に変わる可能性もある」。

権限と予測可能性を担保する契約条件

パブリッシャーが金銭的な対価やコンテンツの管理権以上に求めているのは、定量化の難しい「安定性」だという。長年にわたり、パブリッシャーとテクノロジープラットフォームの関係は、不透明なトラフィックの動き、先の読めない収益性、度重なる規則や方針の変更など、「不安定さ」を特徴としてきた。AIの登場で、この傾向はさらに深まるおそれがある。実際、Digidayが取材したいくつかのパブリッシャーも、「より体系的で、更新可能なパートナーシップ」を志向し、「通常の使用許諾にとどまらない、もっと長期的で同じ方向性を共有するような関係を望む」と語っていた。

TMBのサラモン氏も、同社が理想とする「ドリームアライアンス」とは、徹底した透明性、価値観の共有、共同開発に基づく関係だと述べている。それは単にライセンス料を受け取ることではなく、「関与すること」を意味する。この「関与」には、AI製品の開発過程に発言権を持つこと、リアルタイムでデータにアクセスできること、各種のシステムを流通するコンテンツの管理ツールを確保することなどが含まれる。AIライセンス契約の交渉において、この条件は非常に重要な要素となると、複数のパブリッシャー関係者がDigidayに語っている。

このほか、より明確な法的保護や契約期間の明示、さらにはコンテンツの取り込み後、それがどう使われるかについての情報共有を求める声もある。AIの学習に使われるのか、推論に使われるのか、その両方に使われるのか。あるいは、契約終了後、パブリッシャー側にはどんな権利が残存するのか。

要するに、パブリッシャーは予測不可能な市場で、予測可能であることを欲している。目先の利益ではなく、技術の進歩に合わせて柔軟に変更できる契約条件を求めている。次の変化が訪れたときに、何の手も打てない状況だけは避けたいからだ。この要求が通らなければ、パブリッシャーは「名ばかりのパートナーシップ」に合意するだけで、実質的な支配力は依然相手側に握られたままとなる。しかも、その相手は検索エコシステムそのものを再構築しつつあり、その結果、パブリッシャーの参照流入は右肩下がりに減少している。

プロハスカコンサルティング(Prohaska Consulting)のCEOを務め、プリンシパルでもあるマット・プロハスカ氏は、「人間がWebページにアクセスして記事を読むという行動は、だんだんとなくなる方向に向かうだろう」と述べている。「こうした契約は、どのパブリッシャーが生き残り、どのパブリッシャーが脱落するのかを見極める、新たな指標となりそうだ」。

[原文:A wish list with limits: What publishers want to see from Google’s AI licensing deals

Sara Guaglione and Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:坂本凪沙)

提供元 Digiday