- カヴァやホットトピック、ゾラがTikTokやインスタグラムでクリエイター主導の連続動画を制作している。
- ブランドは広告ではなく文化の一部となることを狙い、ストーリーテリング型の発信を強化している。
- クリエイターが企画から配信まで担う形が広がり、ブランド戦略が「プロダクトプレースメント2.0」へ進化している。
ブランドによるブランデッド・エンターテインメントが再び脚光を浴びている。いわばマーケティングのデジャヴのようなものだ。
ここ数週間で、レストランチェーンのカヴァ(Cava)、小売ブランドのホットトピック(Hot Topic)、結婚情報サイトのゾラ(Zola)といった企業が、インフルエンサーやクリエイターを起用した連続コンテンツを次々と立ち上げている。
これらの動きは、ブランドが「文化の一部になる」ことをめざし、「文化を広告で囲む」従来の手法から脱却しようとする新たな試みを示している。
今回は、クリエイターに賭けることで、この流れが定着するかもしれない。
「究極の目的は、今この瞬間に購入を促すことではなく、物語の一部になることだ」と、ヴァレリー(Valerie)のクリエイティブ責任者シメオン・コーカー氏は語る。
TikTokやインスタグラムで広がる「ブランド発ショートシリーズ」の動き
近ごろ、ブランドは次々とエピソード形式のコンテンツを展開しはじめている。
テレビの小画面ではなく、TikTokやインスタグラムといったショートフォーム動画プラットフォーム上で、シットコム(シチュエーション・コメディ)、恋愛リアリティ番組、スケッチコメディといった形式の作品を投稿しているのだ。
9月下旬、レストランチェーンのカヴァは「ボウルメイツ(Bowlmates)」という週刊の恋愛バラエティ番組をスタートした。司会はニューヨークを拠点に活動するスタンダップコメディアンでコンテンツクリエイターのダニエラ・モラが務める。
ほぼ同時期に、結婚サイトのゾラは「ポップ・ザ・クエスチョンズ(Pop the Questions)」という全7話のソーシャル動画シリーズを公開し、インフルエンサーのジャズ・スミス氏やブランドン・エデルマン氏らが出演した。
一方、ホットトピックは「モール・ラッツ(Mall Rats)」というTikTok向けシットコムをリリース。キャメロン・ペレス氏やケビン・クロウ氏など5人のクリエイターが出演している。
「ボウルメイツ」は独自のインスタグラムとTikTokアカウントを持ち、両プラットフォーム合計で約1300人のフォロワーを獲得している。もっとも人気のある動画はTikTokで6600件以上、インスタグラムで6700件以上の「いいね」を獲得している。
一方、ゾラやホットトピックのコンテンツはブランドの公式ページと出演者のフィードの両方で配信されている。
先行事例に見る「ブランド×クリエイター」コラボの系譜
こうした連続シリーズは、クリエイター文化の王道的な手法を踏襲したものだ。
たとえばネットパーソナリティのアメリア・ディモルデンバーグによる「チキン・ショップ・デート(Chicken Shop Date)」や、コメディアンのドルスキによるスケッチコメディといった人気企画を思わせる。
ただし、今回のコラボレーションでクリエイターやブランドがいくら報酬を得ているのかは明らかにされていない。
「クリエイターがある種のコンテンツやフォーマットへ移行しているなら、それはブランドも追随すべきサインだ」と、マーケティングコンサルティング会社マリネーション(Mallination)創業者のノア・マリン氏は語る。
とはいえ、こうしたブランデッド・エンターテインメントの試みは初めてではない。2021年にはロレアル(L’Oréal)が7話構成のテレビシリーズ「ラン・ル・ヘア・ショー(Run Le Hair Show)」を制作した。
さらに2014年にはチポトレ(Chipotle)が、同社のメッセージを伝えるための4話構成の限定コメディシリーズ「ファームド・アンド・デンジャラス(Farmed and Dangerous)」をHuluおよび自社サイトで配信している。
そのルーツをさらにさかのぼれば、1930年代にP&G(Procter&Gamble)がラジオで昼の連続ドラマをスポンサーしたことが、いわゆる「ソープオペラ」のはじまりだった。
クリエイターが配信プラットフォームとなる新潮流
ブランドによるオリジナルコンテンツ争奪戦は、今にはじまったことではない。
ただし今回は、ブランド自身がエンターテインメント企業を名乗るのではなく、クリエイターを起点にショートフォームのコンテンツを生み出している点が異なる。
「クリエイターは、ほとんど配信プラットフォームそのものになりつつある」と語るのは、エンターテインメントおよびタレント連携企業ソンダーコ(SonderCo)の共同創業者兼CEO、ショーン・アカクス氏だ。
「それだけでなく、彼らはプロデューサーであり、配信者でもある」とも述べる。
アカクス氏はこの新たなブランデッド・エンターテインメントの潮流を「プロダクトプレースメント2.0」と呼び、より「自然で控えめな形」でブランド露出が行われていると分析する。
ストーリーテリングと親近感を軸にした広告を感じさせない戦略
クリエイター主導の連続コンテンツは、ストーリーテリングを軸にした大きな潮流の一部でもある。
消費者がますます広告を避けるようになるなかで、エピソード形式のコンテンツはブランドが文化に参加し、親近感を築き(そして最終的に購買へとつなげる)手段となっている。
「いまソーシャルメディアは、まさにそうした方向に進んでいる。人々はエンタメを求めており、その形は拡張可能だ」と、カヴァのソーシャルメディアディレクターであるアンドリュー・ダウニング氏はDigidayに語った。
「テレビのストリーミングが進化し、5話構成のミニシリーズが人気になっているように、ソーシャル上でも同じことができるのだ」と説明する。
クリエイターエコノミーの成熟とブランド投資の拡大
クリエイターは、もはや単なる出演者ではなく、企画、制作、配信を担う存在になりつつある。これは、クリエイターエコノミーが成熟し、独立したメディアチャンネルとして確立されつつあることを示す兆候だ。
ブランドは、すでにファンを持ち、実績あるフォーマットを築いているクリエイターへの投資を進めている。
「今後、こうした動きはさらに増えるだろう」とヴァレリーのコーカー氏は述べる。
「ただし、残念ながら多くのマーケターは、他社が成果を出してから自分たちも動くという考え方をするため、実際に目に見える成果が出るまでには時間がかかるだろう」と語った。
[原文:Brands are betting on creators to make their next hit series]
Kimeko McCoy(翻訳、編集:藏西隆介)