
- YouTubeはショート専用の広告配信機能を強化し、広告主の投資が急増している。
- 収益分配や編集機能の整備により、ショートはTikTok対抗の主戦場へと位置づけが変化した。
- ショート視聴者の多くがTikTokやインスタグラムを使っておらず、新たなリーチ先として注目されている。
YouTubeショートは広告予算の有力な争奪先に浮上しつつある。
いつものように、広告費はユーザーの注目が集まる場所に流れる。2025年第2四半期、YouTubeショートの1日あたりの平均視聴回数は2000億回を超えた。
広告代理店ティヌイティ(Tinuiti)のリサーチディレクターであるマーク・バラード氏によれば、YouTubeショートに出稿している典型的なクライアントの支出は、今年第1四半期から第2四半期にかけて11%以上増加したという。
マーカシー(Markacy)のクライアントも同様である。同社のメディアディレクター、グラント・カルファス氏は、自社のチームが現在、ほぼすべてのクライアントに対してYouTube、特にショートを積極的に提案しており、年末までにショートへの投資をほぼ倍増させるペースで進んでいると述べた。
その背景には、費用対効果の高い広告運用が可能であるという数値的な根拠がある。
「我々にとって大きな要因のひとつは、ショートで見られるCPM(インプレッション単価)が常に約5ドル(約780円)前後であることだ。これはメタ(Meta)のリール(Reels)やTikTokの10〜12ドル(約1560〜1870円)と比較して非常に安価であり、効率的かつ追加的なリーチを得るための簡単な手段となっている」とカルファス氏は語った。
ショート単独配信が広告拡大の起爆剤に
特に、過去数カ月にわたってGoogleが新たな「デマンド ジェネレーション キャンペーン(Demand Gen Campaigns)」のオプションを展開したことで、YouTubeショートへの広告支出意欲は大きく高まった。このオプションには、ショート枠だけをターゲティングしたり、ショート単独のキャンペーンを構築したりできる機能が含まれている。
ティヌイティのTV・音声・ディスプレイ部門でイノベーション&グロースディレクターを務めるブライアン・バインダー氏によれば、ショート単独のキャンペーンに広告費を増やせなかった理由のひとつが、この機能がなかったからだという。
「現在では、YouTubeは広告主に対し、4つの主要プロダクト——『動画リーチキャンペーン(Video Reach Campaigns)』、『動画視聴キャンペーン(Video View Campaigns)』、『デマンド ジェネレーション(Demand Gen)』、『YouTubeセレクト』——において、ショート枠を単独でターゲティングできる権限を提供している」とバインダー氏は語った。「これはYouTubeにとって大きなブレイクスルーであり、ブランドがYouTubeという複雑なエコシステムを意識することなく、ショートをソーシャル戦略に組み込めるようになった」。
これと同様に、ムーンライターズ(The Moonlighters)の創業者で成長責任者を務めるサム・ピリエロ氏も、この単独キャンペーンの登場が、広告主の導入を大きく変えたと述べている。
「我々はGoogleからチーム全体への導入支援を受けており、優れたショート動画コンテンツを持つクライアントは、現在ショートを優先するようになった」と彼は説明した。「この方法を用いることで、我々はここ5年でもっとも低いCPMを記録している。その結果、ショートへの広告支出は急速に拡大し、アカウントによっては四半期ごとに2〜3倍に増加している」。
この成果は評価に値するものではあるが、ここまで至るには長い道のりを要した。YouTubeの規模を考えれば当然のようにも思えるが、ショートが広告主に受け入れられるまでには時間がかかった。
YouTube、ショートでTikTok対抗を加速
YouTubeは、2022年に「YouTubeショートファンド(Shorts Fund)」を終了し、2023年2月にはYouTubeパートナープログラム(Partner Program)を通じた広告収益分配モデルを導入するなど、この数年間、ショート動画への広告出稿を促進するための基盤整備を進めてきた。
クリエイター向けには、ショートに対する収益手段として「スーパーサンクス(Super Thanks、投げ銭機能)」や商品アフィリエイトタグなどの新機能も提供している。TikTokの禁止が依然として不透明な状況にあるなかで、今年初めには、多くのクリエイターがフォロワーに対し、リールやショートにも自分をフォローするよう促す動きが広がった。また、テレビ画面でショートを視聴できる機能が加わったことで、このフォーマットの視聴数はさらに増加している。
さらに、YouTubeは動画エディターやテンプレート機能の強化、画像から動画を生成するAIツールの導入など、クリエイターやブランドがショートをより柔軟かつ簡単に制作できるよう支援を進めている。
これは、今年初めまでショートが米国でのTikTok規制リスクに備える「保険的な存在」と見なされていた状況からの変化だ。
「最近Googleと話したなかで明確だったのは、彼らがより多くの広告主にショートへ投資してもらいたいと考えていることだ」と、ジェリーフィッシュ(Jellyfish)のペイドソーシャル部門のグローバルエグゼクティブバイスプレジデントであるシャムスル・チャウドリー氏は語った。「Googleは『インスタグラムリールやTikTokで成功しているブランドの取り組みをショートで再現するにはどうすればいいか』という具体的な例を提示している」。
ショートでしか届かない層がいる
ムーンライターズのピリエロ氏によれば、同社のチームはクライアントを代表してベータ版に参加するためのアーリーアクセスと広告クレジットを付与されたケースがいくつもあるという。
「その段階でパフォーマンスが大きく跳ね上がり、我々は本格的にデマンド ジェネレーションやショートへの予算配分を進めた」と彼は語った。「それ以降、Google側からの支援と成果の両面で勢いが持続しており、投資判断を後押ししている」。
ティヌイティのバインダー氏は、自社のGoogle担当者が「TikTokやインスタグラムではリーチできないオーディエンスにショートでアプローチできる」と強調しているという。
「我々が共有されたデータによれば、ショートの視聴者の45%はTikTokを利用しておらず、65%はインスタグラムを利用していない」とバインダー氏は述べる。「つまり、ほかのプラットフォームにしか出稿していない広告主は、潜在的に大きな機会を取り逃がしている可能性がある」。
マーケシーのカルファス氏もこの見解に同意している。
「Googleは、デマンド ジェネレーション キャンペーンへの移行を強力に推し進めており、従来型のYouTubeコンバージョンキャンペーンを段階的に廃止している。そして広告主たちをショートを主軸としたクリエイティブへと誘導している」と彼は述べた。「ショートは今や、リールやTikTokと同様のスピード感とUGC(ユーザー生成コンテンツ)を基盤とした、需要創出型のキャンペーンフォーマットとなっている。ただし、その舞台は圧倒的なエンゲージメントを誇るプラットフォームだ」。
YouTubeは、Digidayのコメント要請には応じなかった。
[原文:As YouTube Shorts reaches 200 billion views, advertisers increase their investment]
Krystal Scanlon(翻訳・編集:坂本凪沙)