
- 楽天グループは「Rakuten AI Optimism」を開催し、AIをテーマに多様なセッションや体験展示を通じて自社のサービスや戦略を発信した。
- 楽天・河野氏とGoogle・奥山氏の対談では、AI時代において人間が果たすべき役割として「問いを立てる力」や「常識を疑う視点」の重要性が語られた。
- データ分析やAI活用が進むなかで、直感や感性といった人間固有の力を活かし、ブランドへの共感を生み出すマーケターの存在意義が再認識された。
楽天グループは7月30日〜8月1日の3日間、パシフィコ横浜で「Rakuten AI Optimism」を開催した。2019年から毎年開催されている同カンファレンスは、ビジネスパーソンだけでなく、家族連れや友人同士など幅広い層に楽天グループのサービスを広く普及するもの。ことしは、AIを中核テーマに据えて開催された。
会場では、ビジネスカンファレンスとしてAIをテーマにさまざまなセッションが行われ、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏や経済学者の成田悠輔氏、元サッカー日本代表監督の岡田武史氏などが登壇。また、展示エリアでは7月30日に提供が開始されたRakuten AIの体験や、楽天グループのサービスである楽天市場や楽天トラベル、加えて楽天のマーケティング支援ソリューションなどが展示された。
AI時代に求められる「問い」の力
8月1日の最終日には、楽天グループ副社長執行役員 グループCMOである河野奈保氏とGoogle日本法人代表の奥山真司氏が、「AI時代のマーケティング ―本質的価値の追求―」と題してセッションを行った。
Googleが2016年頃からAIを最重要テーマと位置づけてきた一方で、楽天も2023年に「トリプル20」を掲げてAI戦略を加速させている。セッションでは、そうした背景を踏まえながら、AI時代における人間の役割について議論が交わされた。
河野氏は、(AIがさまざまな作業を担ってくれるなかで)我々は何をするべきか――という問いを奥山氏に投げかけた。同氏はそれに対し、「『例外』に着目したり、常識を疑ったりすることが求められている」と回答。また、「たとえば『足が早くなるにはどうすればよいか?』ではなく『足が速いとはどういうことか?』といった、そもそも論的な視点で物事を考える思考が必要になる」とし、「問いを持つことで自ら考える力を育み、それがAI時代の人間の大きな役割になってくる」と付け加えた。
両氏の議論が示したのは、AIが一定のセオリーに沿った答えを提示してくれる今だからこそ、人間に求められるのは当たり前を疑い、問いそのものを掘り下げていくような、より深い思考という点だ。
モノ思考から人思考へ――マーケターの使命とは
では、マーケターとしてAIとどう共創していくか――。両氏はそのあり方についても考察を深めた。
楽天グループのCMOである河野氏は、「マーケターの仕事は、戦略を考え、それをアウトプットしてユーザーに伝えること。(そのプロセスには)ただ情報を分析して出すだけではなく、その背後にある直感や感覚のようなものも含まれている」とし、「たとえば、『この商品、なんとなくいいな』といった感じる力こそが、(AIにはない)人間ならではのものではないか」と述べた。
これに対し奥山氏は、「いま、マーケターが果たす役割は何かを考える絶好のタイミングではないか」とし、こう続けた。
「マーケティングは理詰めだけではなく、直感や経験でしか体得できないような領域も必要。メーカーであれば単にモノを売るためのブランドというより、『何があってもこのブランドを選びたい』と思わせるような役割を考えるべきだ」。
加えて、古巣であるP&Gでの経験を振り返りつつ、「課題解決はモノ思考ではなく人思考でなければならない。たとえば、ある汚れ(が落ちない)という困りごとではなく、洗濯周り(の生活)の困りごとは何か、という問いであるべきだ。そういった視点を持つマーケターが増えていくと、ブランドの価値が高まり、生活者をも豊かにすることができる」と語った。
深い思考を通じて課題の本質を捉えること。それがマーケターにとっての出発点であり、ブランドの価値向上にも直結するといえる。
河野氏は最後に、「優れたマーケターとは、ファンを生み出せる人」と述べ、「ユーザーがブランドを通して何を感じ、何を得たのかでブランドへの思い入れは変わってくる。AIなどのテクノロジーを駆使しつつ、最終的には人のつながりを構築できるような仕事をしなければいけない」とまとめた。
「最強のAIを構築する」と三木谷氏
カンファレンスのキーノートには、楽天グループ代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏も登壇。「今、AIは世の中を根本から変えようとしている」と語り、楽天のAI戦略を明かした。
三木谷氏は、「AIにとって重要なのは技術そのものではなく、その背後にあるデータ」とし、楽天グループが保有する膨大なデータの優位性を強調。楽天カードの利用履歴をはじめ、楽天銀行、楽天証券、楽天モバイルなど多岐にわたるサービスがもたらすデータ群を活用し、「さまざまな企業と連携して最強のAIを構築する」と構想を語った。
楽天は現在、「マーケティング効率」「オペレーション効率」「クライアント効率」の3指標を20%向上させる「トリプル20」プロジェクトを推進。また、生成AIを活用したチャットボット「Rakuten AI」の開発も進めるなど、AIを軸にした事業推進を急速に進めている。
文/島田涼平