生成AIの主役は、どうしても海外勢に見えます。
OpenAIの「ChatGPT」、グーグル(Google)の「Gemini」、アンソロピック(Anthropic)の「Claude」。AI開発への巨額投資や新モデルの話題を目にする機会が増え、生成AIはいつしか「どの海外モデルが今いちばん強いか」という文脈で語られることが増えてきました。
一方で、日本国内でも独自のLLM(大規模言語モデル)を開発・活用しようとする動きがあります。それも、富士通、NEC、NTTをはじめとした大企業が、それぞれ本格的に取り組んでいます。
巨額投資を続ける海外ビッグテックを前に、日本企業にはどんな勝ち筋があるのか。
日本を代表するテック企業・富士通、NEC、NTTの3社に、ITジャーナリストの西田宗千佳さんとそんな素朴な疑問をぶつけました。
実際に話を聞いてみると、3社の答えには、それぞれ異なる特色がありました。
「Takane」を手掛ける富士通は、ネット上には十分に公開されていない「日本のビジネス文書」に着目していました。企業の現場で使われる文書や業務の文脈を理解し、それをLLMに活かしていく。そこに、長年エンタープライズ領域で顧客と向き合ってきた富士通ならではの強みがある、という考え方です。
NECは独自モデル「cotomi」を軸に、AIを業務の中で使える形にする視点が印象に残りました。DX支援全体の中で、顧客の現場にAIを届けることを重視しているように見えます。その後、NECのDX事業の枠組み「BluStellar」でも、AIを中核に据えたアップデートが発表されています。
NTTは、40年以上にわたる自然言語処理の研究蓄積を背景に、軽量で「行間が読める」LLM「tsuzumi」を展開しています。ただし、その狙いは汎用モデルとの単純な性能競争にとどまりません。IOWNなどの次世代通信インフラ構想と組み合わせ、AIを業務や社会基盤の中で活用していく点に、NTTならではの方向性がありました。
3社それぞれに違いがあることは、取材前からある程度想像していた通りでした。ただ、話を聞き終えてみると、ある共通点がありました。
それは、国内他社や海外ビッグテックを競合として強く意識している様子が、思ったほど前面に出てこなかったということです。
その背景には、各社がLLMを単体のサービスとしてではなく、自社の既存事業や顧客接点の延長線上に位置づけていることがあります。
例えば、富士通のソリューションを導入している企業であれば、その業務や既存システムの流れの中で、富士通のLLMを活用する選択肢が出てくる。NECやNTTについても、基本的な構造は近いように見えました。
富士通やNEC、NTTにとって、AIやLLMはソリューション全体を構成する重要な要素のひとつです。GPTなどのような汎用モデルとは、競争しているレイヤーがそもそも異なります。
そう考えると、「海外勢を前に勝ち筋はあるのか」という最初の問い自体が、少しずれていたのかもしれません。
こうして横断的に話を聞いてみて初めて見えてくる構造があります。個別の発表を追っているだけでは、なかなか気づけない視点でした。
取材の前後には、国内の大企業数社が結集して日本独自のAI・LLM基盤を開発する新会社の動きも報じられました。経済安全保障の観点からも、日本語に強く、国内にデータを留められるAIへの関心は高まる一方です。
海外勢と同じ土俵で正面から競うだけではなく、自分たちの強みが生きる場所からAIを実装していく。今回の3社の取材から見えてきたのは、モデルそのものの性能競争だけでは語れない、現場実装を起点にしたAIへの向き合い方でした。