私たちが普段呼吸している酸素の大部分が、森や森林から供給されていると思われがちですが、実はそうではありません。地球の大気にある酸素の多くは、海からもたらされています。そして、その主役は海藻です。海藻が果たす役割を知ることで、私たちの暮らしや地球環境への理解が一段と深まるでしょう。

海藻は、主に海中に生息する植物の仲間で、ワカメやコンブ、ヒジキなど、日本の食卓でもなじみのあるものがたくさんあります。しかし、私たちの食事だけにとどまらず、海藻は地球全体の生命活動において非常に重要な役割を担っています。
海藻が酸素を生み出すプロセスの中心となるのは、光合成です。光合成は、太陽の光エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から有機物と酸素を作り出す仕組みです。陸上の植物と同様に、海藻もこのプロセスを通じて酸素を発生させています。
特に注目すべきは、世界の酸素生産量のうち、少なくとも半分以上が海の中で生まれているという事実です。これは意外と知られていないことかもしれません。さらに詳しく見ていくと、地球の酸素生産の推定50%から80%が、海洋の植物プランクトンや海藻によるものとされています。
では、なぜ海藻がこれほどまでに多くの酸素を生産できるのでしょうか。その秘密のひとつは、海藻が海全体に広く分布していることにあります。特に浅瀬や潮間帯には大量の海藻が生育しており、効率よく光合成を行っています。
さらに、海藻は陸上植物と比べて成長スピードが非常に速いことも特徴です。たとえば、コンブやワカメなどの大型海藻は、わずか数か月で数メートルもの長さに成長します。この旺盛な成長が、大量の二酸化炭素の吸収と酸素の放出を可能にしているのです。
また、私たちの目には見えにくいごく小さな藻類も、膨大な量の酸素を生み出しています。ミクロな植物プランクトンやケイ藻類も海中で活発に光合成を行い、私たちが呼吸する大気中の酸素を支えてくれています。

地球が誕生した初期、当時の大気にはほとんど酸素が存在しませんでした。しかし約25億年前、シアノバクテリアと呼ばれる原始的な藻類が誕生し、始めて光合成で酸素を生み出したと言われています。現代の海藻や藻類は、こうした生命進化の歴史にも深く関わっています。
海藻が酸素を生み出すだけでなく、海洋生態系全体のバランス維持にも大きく貢献しています。たとえば、海藻の繁る海域には多くの魚やエビ、カニなど多様な生物が集まり、生態系の基盤となっています。このような環境が健全であることは、酸素生産にも良い影響を与えています。
ところが、近年では地球温暖化や海洋汚染の影響で、海藻の分布域が縮小する傾向が見られています。特に温暖化による海水温の上昇や、富栄養化による赤潮発生などが海藻へのダメージとなり、酸素生産量の減少につながる恐れが指摘されています。
このような危機を回避するためにも、海藻が成長しやすい自然環境を守ることが大切です。持続可能な漁業や、海をきれいに保つ取り組みが今後ますます重要になってくるでしょう。
海藻は私たちが毎日当たり前に感じている呼吸、そして生命活動の根幹を支えています。海に行く機会があれば、砂浜や潮だまりで揺れる海藻たちをじっくり観察してみるのも良いかもしれません。
一見地味な存在に見える海藻ですが、その役割はとても偉大です。私たち人間の暮らしも、海藻がもたらす酸素に支えられているといっても過言ではありません。
宇宙の中の地球という存在を考えたとき、海藻が生み出す酸素によって私たちが生きていられるというのは、非常に不思議で素晴らしい事実です。このつながりを大切にしていきたいものです。

未来の地球環境を支えるためにも、海藻の重要性を見直してみることは、私たち全員の課題かもしれません。