ジョンジョン・フローレンスは、サーフィン界において“天才”とも呼ばれる存在だ。彼が生まれ育ったハワイのオアフ島、ノースショアは世界屈指の大波スポットとして知られている。その特異な環境が、幼少期からジョンジョンを大波に挑むサーファーとして育てたと言っても過言ではない。
ジョンジョンが初めて大きな波と向き合ったのは、わずか8歳の頃だった。母親が彼を見守りながら、初めてパイプラインの波に挑戦した経験は、今でもサーファーたちの間では語り草だ。彼自身も「自然の力を感じて畏怖した」と振り返る。
彼が世界の注目を集めるきっかけとなったのは、2012年、19歳でワールドツアー参戦を果たした年だった。それ以降、ジョンジョンはさまざまなビッグウェーブイベントで圧倒的なパフォーマンスを披露し、世界タイトルも獲得している。その中でも彼が繰り返し語るのは、「大波に対する準備と敬意」の大切さだ。
大波でのサーフィンには、高度な技術だけでなく、自然を理解する冷静さと大胆さが不可欠だとジョンジョンは強調する。彼は毎日のように海の状況を観察し、気圧や風向き、潮目のわずかな変化までをも読み取る癖がついている。これらの観察が、いざという時の判断力につながるのだという。
サーフィンは危険と隣り合わせのスポーツだ。特にビッグウェーブでは、波に巻き込まれると水中で数十秒も息を止めて耐えなければならない。「体力だけでなく、精神も鍛えることが必要」とジョンジョンは語る。彼は毎朝ストレッチと呼吸法を取り入れ、心身を整えることを欠かさない。
ジョンジョンの考え方で特徴的なのは、“自然への敬意”を常に持ち続けていることだ。彼は「波は敵ではなく、相手だ」と話し、サーフィンは自然との闘いではなく、共存だと捉える。それが怪我のリスクを減らし、より良いパフォーマンスを生む秘訣だとしている。
また、世界各地のサーフスポットを訪れる中で、地元の人々やその土地の自然環境にリスペクトを持つことを大切にしている。彼のSNSでも、海洋ゴミの問題やサンゴ礁の保護活動についての発信が多く見られる。プロサーファーとしての影響力を“良い方向”に使いたいという思いがあるのだろう。
ジョンジョンは2度のワールドチャンピオンに輝くなど、輝かしいキャリアを持ちつつも、慢心することなく進化を続けている。怪我による長期離脱という苦難も経験し、そのたびに「海への感謝」をより一層深く感じてきたという。自然があるからこそ、自分があるという謙虚さが彼の原動力だ。
彼のトレーニング方法も注目されている。パフォーマンス向上のため、陸上での筋トレだけではなく、自転車やスケートボード、時には山登りなど陸と海を連動させたメニューを組み込んでいる。体だけでなく五感を鍛えることが、危機察知力向上に直結すると考えているためだ。
ジョンジョンは大波に挑む時、「怖さをゼロにすることはできない」と語っている。しかしその恐怖を受け入れ、準備と努力によってコントロールすることが、最高のパフォーマンスにつながるという。だからこそ、練習だけでなくメンタルトレーニングも欠かせないと考えている。
サーフィンの魅力は、自然の一部になれる感覚にあるとジョンジョンは言う。波のリズム、潮の香り、太陽の光や風。それらすべてを感じながら、ボード1枚で大海原に挑む冒険こそ最高の贅沢なのだと。
近年では、ジョンジョン自らが監督・出演を務めるサーフムービーを多数制作し、迫力あるライディングだけでなく、海や自然環境の美しさ、大切さを訴えかけている。彼の作品は若いサーファーだけでなく、多くの人々のライフスタイルや価値観にも影響を与えている。
競技としてのサーフィンを超えて、人生そのものとして海と向き合うジョンジョン。その姿勢は、単なるスポーツ選手ではなく、現代を生きる人々の「自然との付き合い方」を示す存在となっている。
ジョンジョンにとってサーフィンは挑戦の連続だ。しかし、どんな大波も“敵”ではない。自然と対話し、その偉大さを受け入れることで、人は自分自身と向き合うことができる。それこそが、彼が何度も強調する「敬意」の本質なのだろう。
大波への挑戦と自然への敬意、その両輪があるからこそ、ジョンジョン・フローレンスは世界中のサーファーからリスペクトされ続けている。彼の言葉や生き方は、海を愛する全ての人へのメッセージでもある。
どんなに技術が進化しても、自然の力には敬意と謙虚さを忘れてはならない、そのジョンジョンの信念は、これからもサーフィン界に新しい価値観をもたらし続けるに違いない。