アイスランドの広大な火山島に生息するアイスランドホースは、その可愛らしい外見だけでなく、独特な歩法でも知られています。世界中で多くの馬が二種類から三種類の歩法を持つ中、アイスランドホースはなんと五つの歩法(自然な足の運び方)を身につけていることで世界中の馬愛好家や研究者たちを魅了し続けています。この馬たちに秘められた進化や環境との関わりを知ると、アイスランドという国土そのものの性質とも結びついていることに驚くでしょう。
まず、通常の馬ができる歩法は常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)の三つです。これに対して、アイスランドホースは「トルト」と呼ばれる滑らかな歩様と、「スケイド」と呼ばれる速いペースの歩法をさらに持っています。この五つの歩法は見事と言えるほど器用に使い分けられており、特にトルトはアイスランドホースの代名詞とも言われるほど。馬に詳しい人でなくても一目でその違いが伝わるほどです。
なぜアイスランドホースはこの独特の五つの歩法を身につけたのでしょうか。第一の要因は過酷な自然環境です。アイスランドは火山活動が活発で起伏が多く、地面も固い溶岩や湿地が広がっています。このような場所を快適かつ速やかに移動するためには、通常の馬では難しい滑らかでバランスのとれた動きが必要でした。アイスランドホースの特にトルトは、乗る人の体にかかる衝撃がとても少なく、長時間・長距離の移動にも適しているのが特徴です。
アイスランドの歴史もこの馬の進化に関係しています。9世紀ごろ、北欧のヴァイキングたちが移住してきた際に、彼らが持ち込んだ馬が現在のアイスランドホースの祖先だと言われています。その後、1000年近く外部との馬の交配が禁じられてきた結果、アイスランドの独特な環境下で独自の進化を遂げました。外来種との混血が行われなかったため、五つの歩法を持つ遺伝子がしっかりと維持されたのです。
この五つの歩法の中でも、「トルト」は特に希少です。人が乗っても揺れが少なく、昔から農民たちが長距離を移動する際に重宝されてきました。石が多い荒地の軽やかな小道でも、乗り心地のよさを保ち続けます。また「スケイド」と呼ばれる歩法は、一見すると馬が空中を滑るように見えるほど速いスピードで進みますが、熟練の馬だけが身につけられる貴重な能力です。
アイスランドホースは小柄ですが、力強さと持久力に優れており、厳しい気候に負けない頑丈な体を持っています。また、アイスランドの火山灰や湿地、時には凍てつく氷原もものともせず、どんな場所でも安定した歩様を維持できるのは、何世紀も孤立した火山島で選択淘汰を経験した証です。
また、アイスランド政府はこの希少な品種を守るため、現在も馬の輸出入を厳しく規制しています。一度でも海外へ出たアイスランドホースは、健康や品種の純潔性を守る理由から、再びアイスランドへ戻ることは許されていません。これにより、独自の五つの歩法を持つ遺伝子が今も守り続けられているのです。
近年では、アイスランドホースの五つの歩法を競うスポーツも盛んで、世界中から馬好きたちが観戦に訪れます。その中で繰り広げられる、トルトやスケイドの美しい動きは観客を驚かせ、感動させています。観光客の間では、実際にトルトを体験できる乗馬ツアーも人気です。
このように、アイスランドホースは単なる家畜以上の存在です。独特の歩法を生み出した背景には、過酷な火山島という環境、長い歴史、そして人々による愛情と管理がありました。五つの歩法を巧みに使い分けるこの小さな馬は、アイスランドの自然や文化そのものの象徴と言えるでしょう。
美しい自然、厳しい地形、そして千年の純血。そのすべてが融合したとき、アイスランドホースの五つの歩法という奇跡が生まれたのです。彼らの独特で優雅な動きは、いつの時代も多くの人々の心をとらえて離しません。